広東省の風俗と性病 (HIV・梅毒の感染率)

このところ、微博を中心に、「常平のKTVで165名のエイズ患者が見つかった」という噂が流れている。
この噂にはいくつかバリエーションがあって、「天津のKTVで…」、「大連のKTVで…」と地名だけ変えたものが派生している。常平バージョンはたくさんあるバリエーションのひとつ。
 
常平鎮政府の衛生当局は、昨日(8月9日)、マスコミをとおして「まったくのデマである」とコメントした。こんな噂に対していちいち政府がコメントを出すのは、「大丈夫だから常平に遊びにきてね」という観光客誘致の一環だろうか。大切な地場産業ですからね。

今回のことはデマでよかったわけですが、この話はデマであるとしても、中国の風俗業界にHIVやその他の性病の感染者が少なからずいるのは事実。

広東省の売春婦を対象としたHIVウイルスの検査で初めてHIVキャリアが発見されたのは1998年。売春で摘発されて収容教育を受けている女性1439人を検査した結果、2例の感染者が発見された。感染率にして0.14%。
このあと、感染率は一気に上昇する。

2000年代に入り、HIV感染率は1%を超えた。
危機感をもった衛生当局は、売春禁止のはずの中国で、売春婦に対してコンドームの使用を推奨するという思い切った措置にでる。これにより広東省の風俗産業でのコンドーム使用率は上昇し、梅毒やHIVウイルスの感染率は低下した。


HIVと梅毒の感染率

広東省の防疫についての資料が百度文庫にあった。
政府機関(広東省エイズ防治研究所)の研究者が作成した論文。

『广东省艾滋病流行概况及控制策略』(林鹏ほか著) 百度文库
http://wenku.baidu.com/view/06ce3ad249649b6648d7474b.html

下の画像はこの論文のプレゼン資料。
広東省の売春婦の梅毒とHIVウイルスの感染率をグラフ化したもの。

グラフ3

2003年の梅毒の感染率14%にはちょっと驚く。
2003年と言えば、すでに多くの日本人が広東省の各地で仕事をしていた時期。夜の街にも出かけていた。今思えば、弾丸の雨をくぐって遊んでいたわけ。被弾した人もいたでしょう。
2003年をピークに感染率は低下に向かったが、2007年の約5%でもまだ十分に高い。

HIVウイルスの感染率は2002年~2003年あたりで1%を超えてピークに達したが、当局による衛生指導が功を奏して、2007年には0.21%まで低下した(摘発された売春婦961人を検査した結果、2例のHIV感染者が発見されたとのこと)。


売春時のコンドーム使用率

下の画像は、広東省の売春婦を対象に調査したコンドーム使用率のグラフ。
青線が示しているのは「必ず使用する」と答えた者の割合で、2007年の時点で約80%。使わないと回答した人の割合(ピンク色の線)は近年非常に低くなっている。
コンドーム使用率の上昇と性病感染率の低下がリンクしていることがわかる。

グラフ1



薬物使用者

薬物常習者は不衛生な注射針を使い回しするので、HIVに感染する率が高い。上に引用した論文では、その感染率の調査結果も紹介されている。

2005年の時点で、広東省で薬物中毒治療施設に収容されている10700名のうち558名(5.5%)がHIVキャリアだった。
2007年には11275名中436名(3.87%)まで低下したが、極めて高い感染率であることに変わりはない。

彼ら(彼女ら)のうち約30%は売買春の経験がある。その売買春の際に毎回コンドームを使用したと回答した人の割合は10%以下だった。男性の薬物常用者から風俗業界への二次感染がおこっている可能性もありそうだ。



東莞の風俗業界では

常平を含む東莞の売春婦のHIV感染率は、広東省全体の数字よりも高い。

南方都市報 「东莞暗娼艾滋感染率约0.4%」 
http://gcontent.oeeee.com/4/56/456ac9b0d15a8b7f/Blog/979/92ff75.html

2009年の時点での感染率は約0.4%とのこと。
当局が掲げる目標は、東莞市の娼婦のHIV感染率を2015年まで常時1%以下に抑えることなのだそう。

http://www.dg.gov.cn/business/htmlfiles/cndg/s1272/201306/645099.htm

東莞市は、この6月にも、エイズ対策の具体的施策に関する計画を発表した。

东莞市遏制与防治艾滋病行动计划
http://www.dg.gov.cn/business/htmlfiles/cndg/s1272/201306/645099.htm

しかし、「1%以下」という目標は、仮に成功したとしても、なんだかあまり安心できない数字だ。
結局は自衛が大切ですね。


打飛機は売春にあらず?

新華網のこのニュース。

广东高院:手淫不属卖淫 http://news.xinhuanet.com/local/2013-06/26/c_124910877.htm

事件の概要はこんな感じ。

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広東省仏山市で、数名の女性を雇い、男性客に「手」や「胸」による性的サービスを提供していた風俗店が検挙された。経営者の李某ら3名に対する第一審の判決は懲役5年、罪名は「売春組織罪」。

中国の刑法では、売春を仲介したり組織したりする行為には懲役刑が科せられる。罪状が非常に悪質であれば死刑もありうる。

李某は控訴した。控訴審で弁護士は、李某の店でおこなわれていたのは「手」や「胸」によるサービスだけで、これらは「売春」にはあたらない、と主張した。
控訴審の裁判所は、次のような意見を述べて、差し戻しを決定した。

「刑法学の理論によれば、売春とは、営利目的で不特定の相手と性交または性交に類似する行為をおこなうことをいう。単に手や乳房により男性の生殖器を摩擦する行為は含まれない。」

その後、検察官は、補充捜査をしたうえで、刑事責任を追及すべきでないと判断して起訴を取り下げた。3名の被告人は、いずれも無罪となり釈放された。

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ここで問題になっているのは、刑法上の「売春」にどのような行為が含まれるかですね。

中国の刑法上の「売春」に「打飛機」(てこき)や「波推」(ぱいずり)などの性交に至らない性的サービスが含まれるのかについては、法律には具体的な説明がなく、また司法解釈もないので、裁判所によって扱いはまちまち。上記の事件では「売春にあたらない」と判断しているけれど、他の裁判所では売春にあたると判断して有罪にした例も複数ある、と上記の記事は解説している。

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ちなみに、男性がこの種の店で「客として」捕まったときには、刑法ではなく、「治安管理処罰法」に基づく行政処分が科されるのが一般的なので、上の案件とは取り扱いが異なる。
この場合、行政処分を科すのは裁判所ではなく警察なので、「売買春」(卖淫嫖娼)にどのような行為が含まれるかの判断は、公安部門の考え方にかかっている。

この点に関し、2001年に公安部が出した通達には、「不特定的异性之间或者同性之间以金钱、财物为媒介发生不正当性关系的行为,都属于卖淫嫖娼行为」と書いてある。中国の警察はこの通達を根拠に、打飛機(てこき)や波推(ぱいずり)も卖淫嫖娼(売買春)であるとして、拘留処分や罰金(15日以下の拘留、5千元以下の罰金)を科している。

つまり、結局のところ、「手」だけでも客として捕まれば買春として処罰されますよ、ということ。
また、相手をした女性も、同じく「治安管理処罰法」によって拘留などの処分が科せられる。

そうすると、上の事件で風俗店の経営者が無罪になっていることとのバランスがとれないようにも見えるけれど、刑法の売春仲介等の罪は、懲役刑・死刑もありうる重罪なので、「刑法上の売春」にあたるか否かは厳密に定義せざるをえず、こういう結論になるのもいたしかたないんでしょうね。

ちなみに、風俗店経営者に対しても前述の「治安管理処罰法」に基づく行政処分(罰金や短期間の拘留など)を科すことはできるので、その限度でならば制裁を与えることは可能。結果論としては、最初から行政処分による処罰を選択しておればよかったわけです。


買春で6か月の収容教育に処せられたケース

東莞市の清渓鎮で、買春をした男性が6か月の収容教育に処せられたというニュースがあった。

东莞男子嫖娼未及时交罚款被收容半年 (21CN新聞)

今年の5月24日午後、清渓鎮の宏信假日酒店のサウナで買春をした王氏。
ことの最中に警察に踏み込まれ、身柄を拘束された。
王氏の相手をした女性は、18歳未満の未成年だった。

連絡を受けた妻が、翌朝8時ころ、罰金5000元を持参して警察に行ったところ、すでに収容教育6か月の処分が決定しており、夫の身柄は大朗鎮の看守所に収容されたあとだった。


収容教育6か月の根拠

警察がこの処分の根拠とした法令は、
買売春の禁止に関する決定」(1991年制定)

買売春者収容教育弁法」(1993年公布)

「買売春の禁止に関する決定」は、
買売春をした者は、「治安管理処罰条例」第30条の規定によって処罰する
と規定したうえで、さらに、
6か月から2年の法律道徳教育と労働により悪習を改めさせることができる
と規定している(第四条)。

また、「収容教育弁法」は、
買売春をした者は治安管理処罰条例第30条の規定により処罰する
と規定した上で、さらに、
公安機関が収容教育の決定をすることができる(第7条)。
と規定している。


(なお、上の2つの規定で言及されている「治安管理処罰条例」は、2005年に新しく「治安管理処罰」が制定されたときに、廃止された。
廃止前の「条例」第30条は、
買売春をした者は15日以下の拘留、警告、反省文提出命令に処するか、または、規定に従い労働教育処分に処する。5000元以下の罰金を併科することができる
という内容だった。)



妻側の反論

王氏の妻は、6か月の収容教育処分はあまりに重過ぎるとして、上級の公安局に不服申立をした。
その主張は、概略、次のとおり。

警察は、適用すべき法令を間違っている。
2005年に「治安管理処罰法」が制定されたことにより「治安管理処罰条例」は廃止され、それと同時に「収容教育弁法」と「買売春の禁止に関する決定」も失効した。

したがって、王氏の処分は、現行の「治安管理処罰法」のみによるべきである。
同法第66条には、
買売春をした者は、10日以上15日以下の拘留に処し、あわせて5000元以下の罰金を科すことができる。罪状の軽いものは、5日以下の拘留または500元以下の罰金に処する
と、規定されている。
収容教育に処することができるという規定はない。
よって、警察の処分は法令上の根拠がなく、違法である。

以上が、妻側の言い分。


警察の説明

この件について、清渓鎮の警察は、
「収容教育弁法」と「買売春の禁止に関する決定」の2つの規定は今も有効
と説明している。

また、警察は、王氏を重く処分した理由として、
相手の女性が18歳未満の未成年であったことに鑑み、収容教育処分とした
と説明している。



感想・・・

ちなみに、こういう処分は、刑事罰ではなくて行政処分なので、裁判所の関与なしに、警察だけで決定できる。日本で言えば、交通違反の反則キップを切るようなものである。
だからこそ、サウナで拘束された翌朝に6か月の収容処分が決定して看守所に送られる、という問答無用のスピード決着になってしまうわけ。

警察の胸三寸でどうでにもなる恐ろしさがある。

現在、不服申立中なので、最終的にどのような結論が出るのかはわからないけれど、少なくとも、東莞市内の警察で、このような取扱いが実際に行われていることは、知っておいてもよいかと。


まあ、知っていたからと言って、どうにかなるものでもないのですが・・・


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