東莞(トンガン)のサウナの取締り (その2)

東莞のサウナの一斉取締は北京や香港のメディアも巻き込んで大きな話題になっていますね。華南の「掃黄」(売春取締)がこういうセンセーショナルな話題になるのは、2003年の珠海での日本人集団買春事件、2006年の深センでの公開処理大会、以来のこと。

取締が実施されている地域は、テレビで取り上げられた東莞にとどまらず、お隣の恵州でも2000人の警官が動員され、逮捕者が出ています。
広東省の党書記の肝いりで緊急取締が行なわれているわけですから、広東省全域が対象です。この週末など、東莞に限らず、珠海も広州も深センも中山も、夜のスポットには出入り不要です。

今回の取締後、日本の華南売春情報系のブログや、某掲示板の東莞板は、のきなみこの話題です。書き込みの多くは、「なぜ取り締まる必要があるのか」、「女の子がかわいそう」、「弱い者いじめだ」、というトーン。


弱い者いじめというよりは

たしかにミクロで見れば、当面の収入が得られなくなる性産業従事者は困っていることでしょう。しかし、この取締自体は、別に「弱い者いじめ」をしているわけではないと思います。

中央電視台の報道について言えば、最も問題とされているのは「権銭交易」(権力と金銭の取引、つまり汚職)であって、売春そのものではないです。批判の真の矛先は、売春婦ではなく役人です。
中堂鎮の国安ホテルのサウナで売春が行なわれていると記者が警察に通報したが無視された。売春が行なわれている黄江の太子酒店の経営者は全国人民代表(国会議員)であった。KTVの駐車場にあった客の車のナンバーを照合したら、公用車であった。こういうところに、報道の重点は置かれています。

そして、広東省や東莞市の政府がこれほど迅速に(まるで尻尾を踏まれたネコのように)反応した理由もまた、「権銭交易」を赤裸々に指摘されたことが大きいのだと思います。

北京に「新京報」という新聞があります。北京の街角のスタンドで買える大手新聞です。反骨・反権力的な姿勢で知られています。
その新京報が社説で今回の一件を取り上げています。おおまかに抄訳すると、


「売春婦」にばかり注目していると、低俗な好奇心を満足させることはできても、性産業の裏側にある汚職や暴力犯罪など本当の問題を見逃すことになる。

ここ何年か、各地の警察による売春取締も、それを報道するメディアの態度も、「売春婦」そのものに重きを置いてきた。そして今回も、警察が公開した大量の写真は、いずれも売買春に関わった人々の姿を撮影したものだった。取締のきっかけとなったテレビ番組も、「売春婦」の姿を画面に写すことに多くの時間を割いていた。

しかし、性産業の仕組みの中で、「売春婦」は末端部分に過ぎない。ある意味、彼女らもまた「被害者」である。
彼女らは違法な職業に従事していたし、多くの人の道徳観に照らせば、彼女らがしていたことは不名誉で、恥ずべきことである。彼女らを処罰することは不当ではない。
しかし、このような(訳注:売春婦を晒し者にするような)取締方法やメディアの報道のやりかたは、いささか度が過ぎている。

もとより、「売春婦」がいなければ性産業は成立しない。しかし、性産業を構成する組織、経営者、そして保護傘を提供する者(訳注:ここでは、違法営業を見逃している汚職警官を指している)、これらがなければ、「売春婦」が仕事をすることはできない。

民衆の視線をそらすために「売春婦」の姿を前面に出し、一方、「保護傘」は、暗闇の中に姿を隠している。このような売春取締のお決まりの方法こそ、民衆の不満の大きな原因である。

性産業の氾濫を防ぐにためには、何人の「売春婦」を逮捕し、何箇所の営業場所を閉鎖したかが問題なのではない。その背後にある犯罪や、権力者による「保護傘」を根絶することが肝心なのである。

売春取締は何十年もおこなわれているが、いい加減にバージョンアップする必要がある。東莞で警察職員が停職処分になったことは評価できる。性産業の深部にある違法行為にこそ、警察は取締の重点を置くべきであり、メディアや世論が関心を向けるべき核心である。

新京報 2月12日 社説
http://epaper.bjnews.com.cn/html/2014-02/11/node_2.htm

※なお、性産業で働く女性を原文では「小姐」という含みのある言葉で呼んでいますが、日本人にわかりやすくするために端的に「売春婦」と訳出しました。



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まことに御もっともな意見です。

反骨・反権力が社是の新京報なので、警察も政府もCCTVもひとまとめにして批判していますが、今回のCCTVの報道は、この新京報の社説が主張するような視点も踏まえたものであったと僕は思います。よくよく見れば、その趣旨は明らかです。

昨年のスワンレイクホテルのサウナの一件のように一地方の小さなテレビ局が報じたものではなく、中央政府の直下にあるCCTV(中央電視台)がその趣旨の報道をしたことは、地方の役人にとっては恐怖でしょう。
実際、公安部は、広東省の公安局に対して「保護傘」(性産業の背後にいる汚職警官など)の摘発を命じています。

それが一定の成果につながるのか、今の時点ではよくわかりませんが、もしかしたら、東莞の街の性格がかわってくる結果になるかも知れませんね。


それで?

そういう変化は、僕らにとって、正直、ありがたいものではないんですが、まあ、そうなったらなったで、
「歴史を目撃しちゃったなぁ」
という感慨が得られるのかな。


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